コラム

任意後見・死後事務委任で始める安心設計|制度の内容と選択のポイント

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人生100年時代と言われる昨今、認知症リスクや高齢化による判断能力の低下、そして自身が亡くなった後の手続きなど、将来に対する不安は年々増加しています。
そんな不安を少しでも和らげるために有効とされるのが、任意後見死後事務委任です。
この記事では、それぞれの制度の特徴や導入メリットを解説しながら、利用する際のポイントを分かりやすく説明していきます。

任意後見・死後事務委任を知る:基礎知識と利用ケース

死後事務委任とは:依頼できる手続きや作業内容

死後事務委任とは、自分が亡くなった後に必要となるさまざまな事務手続きを、あらかじめ第三者に依頼しておくための契約です。
具体的には、

  1. 葬送に関する事務
    葬儀・火葬・埋葬,供養・法要等
  2. 行政機関への届出等の手続
    死亡届提出,年金の受給資格抹消申請,健康保険証の返還,運転免許証・旅券の返納,税金の納付等
  3. 生活に関する手続
    関係者への死亡の連絡,病院や介護施設の未払料金の精算,賃貸不動産の解除・明渡,公共料金の支払・解約,インターネットの解約,SNS等のアカウント削除,PC・携帯電話の個人情報の抹消処理,ペットの引渡し・施設入所等

などが挙げられます。これらは死亡後に必ず発生する手続きですが、ご家族や近しい親族の負担を軽減したり、そもそも家族がいない方でも漏れなく対応してもらえるようにするためにも、あらかじめ契約しておく価値が高いといえます。

死後事務委任と任意後見との関係

  • 任意後見
    自分の判断能力がしっかりしているうちに、将来判断能力が低下したときに備えて、事前に「誰に」「どの範囲を」サポートしてもらうかを取り決めておく制度です(厚労省「任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」参照)。
  • 死後事務委任
    名前の通り、本人が亡くなった後に発生する事務作業を依頼する契約です。

この2つの制度は連動しているわけではありませんが、“生前の管理(任意後見)”と“死後の手続き(死後事務委任)”をセットで準備しておくことで、生前・死後の両面から抜け漏れのないサポート体制を整えることができます。
特に、任意後見人を信頼している場合は、同じ人や同じ法人に対して死後事務委任を依頼するといった形で、スムーズに手続きを進められるケースも少なくありません。

死後事務委任のメリット・デメリット

  • メリット
    1. 家族・親族の負担軽減
      葬儀・納骨から費用の支払いまで包括的に依頼できるため、遺される家族が対応しなければならない手続きの煩雑さを大幅に軽減できます。
    2. 身寄りがいない場合の安心感
      おひとりさまや身寄りの少ない方でも、死後に必要な手続きが円滑に進むので安心です。
    3. 希望の葬送や手続き方法を事前に決められる
      葬儀のスタイルや納骨先など、生前のうちに細かい要望を伝えておくことで、希望どおりの形で見送ってもらえます。
  • デメリット
    1. 契約費用や報酬が発生する
      死後事務委任を依頼する個人・法人へ支払う報酬や、公正証書作成時の費用がかかります。
    2. 受任者との信頼関係が重要
      死後の手続きは本人が確認できないため、受任者との十分なコミュニケーションと、契約内容の明確化が必須です。
    3. 遺産分割や相続手続きには原則対応不可
      死後事務委任の範囲は事務的な処理が中心であり、相続財産の分割や相続税申告などには対応していない点に注意が必要です。

任意後見・死後事務委任を成功させるための具体的ステップ

任意後見・死後事務委任の手続の流れについて

  1. 情報収集・相談
    • まずは任意後見や死後事務委任に関する基本情報を集め、家族や専門家に相談しましょう。公的機関の情報や法律事務所の無料相談などを活用すると、具体的なイメージが持ちやすくなります。
  2. 契約内容の決定
    • 任意後見なら、誰に後見人を依頼するのか、どの範囲を任せるのかを明確にします。
    • 死後事務委任なら、葬儀・納骨・遺品整理など、どのような事務作業を委任するのか、費用の支払い方法・手続きまで具体的に検討します。
  3. 公正証書の作成
    • 任意後見契約は公正証書の作成の必要があります。死後事務委任契約については法律上は公正証書にする必要はありませんが、一般的に公正証書として作成することがおすすめです。公正証書にすることで、後から生じるトラブルを未然に防ぎ、法的にも証拠力が高まります。
    • 事前に公証役場へ相談すれば、必要書類や手続きの進め方を確認することができます。
  4. 制度の発動
    • 任意後見は、本人の判断能力が低下した時点で家庭裁判所へ申立てることで正式に始動します。なお、それまでの間、見守り契約や財産管理契約を締結することもあります。
    • 死後事務委任は、本人の死亡が確認された段階で契約が発動し、委任者が各種手続きを実行します。

まとめ:任意後見・死後事務委任を活用して、将来の不安を解消しよう

  • 任意後見は、将来の判断能力の低下に備えて、生前のうちに財産や生活を管理してもらう体制を整える制度。
  • 死後事務委任は、死亡後の煩雑な手続きや葬儀・費用清算などを第三者に依頼しておくことで、家族の負担を軽減し、本人の意思を尊重したかたちで見送ってもらうことを可能にする制度。

両制度を活用することで、生前から死後にかけて幅広くカバーできる総合的な安心設計が実現できます。財産や保険・税金などの複合的な問題が関わる場合も多いため、専門家へ相談しながら進めるのがおすすめです。

今からしっかりと準備をしておくことで、家族やご自身の将来の不安を軽減できます。任意後見・死後事務委任のご相談は当法律事務所へお気軽にお寄せください。
経験豊富な専門家が、あなたのご状況に合わせた最適なプランを一緒に考え、安心できる老後・死後の設計をしっかりサポートいたします。

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ABOUT ME
弁護士 黒澤真志
弁護士 黒澤真志
代表
2009年12月に弁護士登録(登録番号41044)し、アクト法律事務所にて勤務した後に2019年4月に独立し、法律事務所DeRTA(デルタ)を設立。 家族関係の法律問題に関する交渉事件から訴訟事件までを数多く取り扱っており、東京地方裁判所の破産管財人や東京簡易裁判所の司法委員も担当している。 著書に、「離婚・離縁事件実務マニュアル」(第3版)(ぎょうせい)共著、「遺産分割実務マニュアル」(第3版)(ぎょうせい)共著、「新破産実務マニュアル」(全訂版)(ぎょうせい)共著、「遺言書・遺産分割協議書等条項例集」(新日本法規)共著など。
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