コラム

家族信託とは?認知症・相続対策に強い財産管理の新しい選択肢

derta_kouken

高齢化社会が進む日本において、認知症対策や相続対策はますます重要なテーマとなっています。そんな中、注目を集めているのが「家族信託」という仕組みです。従来の遺言や成年後見制度とは異なるアプローチで、柔軟な財産管理と承継を可能にする家族信託について、詳しく解説します。

Contents
  1. 1. 家族信託とは?その仕組みと基本を解説
  2. 2. 家族信託の活用事例5選 | 実際の導入例から学ぶ
  3. 3. 家族信託の4つの活用場面 | こんな時に役立ちます
  4. 4. 家族信託と他の制度を徹底比較
  5. 5. 家族信託の5つのメリット | なぜ今注目されているのか
  6. 6. 家族信託の注意点・デメリット | 導入前に知っておくべきこと
  7. 7. 家族信託設計の流れ | 準備から実行までのステップ
  8. 8. 家族信託と任意後見の併用戦略 | より強固な備えのために
  9. 9. まとめ:家族信託で実現する安心の財産管理

1. 家族信託とは?その仕組みと基本を解説

1-1. 家族信託の定義と法的根拠

家族信託とは、信託法に基づき、家族間で財産管理を行う民事信託の一種です。「委託者」が自分の財産を「受託者」に託し、その財産から生じる利益を「受益者」が受け取る仕組みです。法的には2007年に施行された新信託法に基づいています。

家族信託の最大の特徴は、委託者の意思に基づいた財産管理が可能な点です。財産を託される受託者は、委託者が定めたルールに従って財産を管理・処分する義務を負います。

1-2. 委託者・受託者・受益者の役割

家族信託には主に3つの役割があります:

  • 委託者:財産を信託する人。信託の目的や条件を決定します。
  • 受託者:委託者から財産を託され、管理・運用する人。信託目的に沿って誠実に財産を管理する義務があります。
  • 受益者:信託から生じる利益を受け取る人。委託者自身が受益者になることも可能です。

例えば、親(委託者)が子(受託者)に財産を託し、その財産から生じる利益を親自身(受益者)が受け取るという形が一般的です。

1-3. 一般的な信託との違い

家族信託は、銀行や信託会社が行う商事信託とは異なり、家族や親族が受託者となる点が特徴です。専門機関に支払う手数料が不要となる一方、受託者となる家族には高い信頼性と責任が求められます。

2. 家族信託の活用事例5選 | 実際の導入例から学ぶ

2-1. 高齢の親の財産管理を子どもが行うケース

70代の父親が所有するアパートの管理が難しくなってきたため、40代の息子を受託者として家族信託を設定。父親は受益者として家賃収入を受け取りながら、息子がアパートの管理や修繕、入居者対応などを行うことで、安定した資産運用が継続できています。

2-2. 障害のある子どものための財産管理

知的障害のある子どものために、親が生前に家族信託を設定するケース。親が亡くなった後も、兄弟が受託者となって障害のある弟のために財産を管理し、生活を支援する仕組みを構築しています。

2-3. 認知症対策・不動産の有効活用と管理

複数の不動産を所有する高齢者が、認知症発症に備えて家族信託を設定。信頼できる子どもを受託者とすることで、将来判断能力が低下しても、不動産の売却や建て替え、リフォームなどの意思決定がスムーズに行えるようになりました。

2-4. 事業承継における活用例

個人事業主が事業用資産を家族信託に組み込み、後継者を受託者に指定。事業主は引退後も受益者として収益を受け取りながら、後継者は事業判断を自由に行えるようになり、スムーズな事業承継が実現できました。

2-5. 遺言では実現できない柔軟な財産承継

3代にわたる財産承継を実現するために受益者連続型の家族信託を設定。委託者(祖父)から第一次受益者(息子)、そして第二次受益者(孫)へと、柔軟に財産を引き継ぐことができました。遺言では一代限りの指定しかできないため、このような長期的な財産承継計画には家族信託が適しています。

3. 家族信託の4つの活用場面 | こんな時に役立ちます

3-1. 認知症対策:判断能力低下に備えた財産管理

認知症などにより判断能力が低下すると、自分で財産管理ができなくなります。契約を締結しても有効性が認められない場合も生じるため収益不動産をお持ちでも賃貸借契約を締結できないという問題も生じます。

家族信託では、判断能力があるうちに信託を設定しておくことで、将来認知症になっても、受託者が委託者の意思に沿った財産管理を継続できます。
特に重要なのは、成年後見制度では困難な「積極的な財産活用」が可能な点です。不動産の売却や建て替えなども、あらかじめ信託契約で定めておけば、家庭裁判所の許可なく実行できます。

3-2. 相続対策:受益者連続型の仕組みと効果

家族信託の「受益者連続信託」を活用すると、委託者が亡くなった後の財産の行方まで指定できます。例えば、配偶者→子ども→孫というように、次々と受益者を指定することが可能です。

これにより、遺言では実現できない「孫への財産承継」や「再婚相手への財産移転防止」などの複雑な相続対策が可能になります。

3-3. 共有不動産の対策:複雑な権利関係の整理

相続などで生じた共有不動産は、意思決定に共有者全員の同意が必要なため、管理や処分が難しくなりがちです。家族信託を活用すれば、共有者の持分を信託財産として一元管理できるようになり、スムーズな意思決定が可能になります。

3-4. 事業承継対策:円滑な事業の引継ぎ方法

個人事業主やオーナー経営者にとって、事業承継は大きな課題です。家族信託を活用すれば、事業用資産を信託財産として、後継者を受託者に指定することで、経営権と収益権を分離できます。これにより、創業者は収益を確保しながら、後継者に経営を任せることができます。

4. 家族信託と他の制度を徹底比較

4-1. 法定後見制度との違いとメリット

法定後見制度は、すでに判断能力が低下した方のための制度です。一方、家族信託は判断能力があるうちに設定するもので、以下の点で大きく異なります:

項目法定後見制度家族信託
開始時期判断能力低下後判断能力があるうち
管理者家庭裁判所が選任委託者が指定
裁判所の関与定期的な監督あり原則なし
財産活用の自由度制限あり(保全が原則)高い(積極的活用可能)
プライバシー公的記録に残る私的契約で守られる

法定後見制度では財産の保全が重視され、不動産の売却や新規投資などには裁判所の許可が必要です。一方、家族信託では委託者の意思に沿った積極的な財産活用が可能です。

4-2. 任意後見制度と家族信託の使い分け

任意後見制度は、将来の判断能力低下に備えて、あらかじめ後見人を指定しておく制度です。家族信託との主な違いは以下の通りです:

項目任意後見制度家族信託
目的身上保護と財産管理主に財産管理
開始時期判断能力低下後(医師の診断必要)契約時から即時開始可能
監督家庭裁判所が監督人を選任原則なし
財産活用の自由度やや制限あり高い

任意後見制度は身上保護(医療・介護に関する決定など)も含む点が特徴です。一方、家族信託は財産管理に特化しており、より柔軟な財産活用が可能です。両制度を併用するケースも多く見られます。

4-3. 財産管理契約との違いと選択ポイント

財産管理契約は、委任契約の一種で、財産管理を他者に委託する方法です。家族信託との主な違いは以下の通りです:

項目財産管理契約家族信託
法的構成委任契約信託契約
財産の帰属委任者のまま受託者へ移転
委任者死亡時契約終了継続可能

財産管理契約は比較的シンプルで手軽ですが、委任者の死亡で終了し、管理者の破産リスクも伴います。家族信託は、より長期的・安定的な財産管理が可能です。

4-4. 遺言との併用による効果的な活用法

遺言と家族信託は、それぞれ異なる役割を持っています:

項目遺言家族信託
効力発生時期死亡時契約時から可能
財産の承継一代限り複数世代可能
条件付与限定的柔軟に設定可能
生前の財産管理不可可能

両者を併用することで、より効果的な資産承継が可能になります。例えば、主要な財産は家族信託で管理し、それ以外の財産は遺言で分配するといった方法が考えられます。

5. 家族信託の5つのメリット | なぜ今注目されているのか

5-1. 柔軟な財産管理が可能

家族信託の最大のメリットは、委託者の意思に基づいた柔軟な財産管理が可能な点です。不動産の売却、建て替え、新規投資など、あらかじめ信託契約で定めておけば、様々な財産活用が可能になります。

5-2. 家庭裁判所の関与が不要

法定後見制度や任意後見制度と異なり、家族信託では原則として家庭裁判所の関与がありません。そのため、財産の管理や処分に関する意思決定がスムーズに行えます。裁判所の許可を得る手続きに時間とコストがかかりません。

5-3. プライバシーの確保

成年後見制度では、後見開始の事実が登記され、公的な記録として残ります。一方、家族信託は私的契約であるため、プライバシーが守られます。特に資産家の方にとっては、財産情報を公にしないメリットは大きいでしょう。

5-4. 認知症になっても財産活用が継続できる

認知症などで判断能力が低下すると、通常は財産の管理・処分が制限されます。しかし、家族信託を設定しておけば、委託者の意思に基づいた財産活用が継続できます。不動産投資や事業経営などを行っている方にとって、これは大きなメリットです。

5-5. 複数世代にわたる財産承継が可能

受益者連続型の家族信託を活用すれば、委託者→配偶者→子→孫といった、複数世代にわたる財産承継計画を立てることができます。遺言では指定できない「孫への直接的な財産移転」も可能になります。

6. 家族信託の注意点・デメリット | 導入前に知っておくべきこと

6-1. 信頼できる受託者の選定が重要

家族信託の成否は、受託者の信頼性にかかっています。受託者が財産を横領したり、不適切に管理したりするリスクもあります。信頼できる家族がいない場合は、弁護士や司法書士などの専門家を受託者に指定することも検討すべきでしょう。

6-2. 税務上の取り扱いと注意点

家族信託では、信託財産の名義が変わるため、税務上の影響を考慮する必要があります。特に以下の点に注意が必要です:

  • 他益信託の場合の贈与税
  • 不動産取得税や登録免許税
  • 信託期間中の所得税
  • 委託者死亡時の相続税(贈与税)

適切な税務対策を行わないと、予想外の税負担が生じる可能性があります。専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

6-3. 設立・運営コストの検討

家族信託の設定には、信託契約書の作成や不動産の名義変更などの手続きが必要です。これらには一定のコストがかかります。また、信託財産の管理・運用にも継続的なコストが発生する可能性があります。費用対効果を十分に検討することが重要です。

6-4. 家族間の対立リスクと対処法

家族信託では、受託者に大きな権限が与えられるため、家族間で対立が生じるリスクがあります。特に、受託者と受益者が異なる場合は、利害の対立が起こりやすくなります。

このリスクを軽減するために、信託監督人を設置する、定期的な報告義務を課す、複数の受託者を指定するなどの対策が考えられます。

7. 家族信託設計の流れ | 準備から実行までのステップ

7-1. 信託目的の明確化

家族信託を設計する第一歩は、何のために信託を設定するのかを明確にすることです。認知症対策なのか、相続対策なのか、事業承継対策なのか、目的によって最適な信託設計は異なります。

具体的には以下のような点を検討します:

  • どの財産を信託するか
  • 誰を受託者・受益者にするか
  • どのような管理・処分権限を与えるか
  • 信託をいつまで継続するか

7-2. 家族信託契約書の作成ポイント

家族信託契約書は、信託の「憲法」とも言える重要な文書です。以下の点に注意して作成します:

  • 委託者・受託者・受益者の特定
  • 信託財産の特定
  • 信託の目的
  • 受託者の権限と義務
  • 信託の変更・終了条件
  • 受益者への給付方法
  • 受託者の報酬・費用負担

契約書の作成には、信託法の知識と経験が必要です。弁護士や司法書士など、家族信託に詳しい専門家に依頼することをお勧めします。

7-3. 不動産・金融資産の信託手続き

信託財産には、主に不動産と金融資産があります。それぞれ、以下のような手続きが必要です:

不動産の場合:

  • 信託を原因とする所有権移転登記(委託者→受託者)
  • 信託登記(この不動産は信託財産であることを公示)

金融資産の場合:

  • 信託口座の開設
  • 預金の名義変更
  • 証券口座の開設・名義変更(但し、取り扱っている証券会社は限られる)

7-4. 登記と税務申告の実務

家族信託を設定した場合、適切な登記手続きと税務申告が必要です:

登記手続き:

  • 所有権移転登記
  • 信託登記

税務申告:

  • 所得税の申告(信託財産から生じる所得)
  • 贈与税の申告(必要な場合)
  • 不動産取得税の申告(必要な場合)

これらの手続きは複雑なため、専門家のサポートを受けることをお勧めします。

8. 家族信託と任意後見の併用戦略 | より強固な備えのために

8-1. 両制度の長所を活かす併用のメリット

家族信託は財産管理に、任意後見は身上保護に強みを持つため、両者を併用することで、より包括的な対策が可能になります。

具体的には、特定の不動産や金融資産は家族信託で管理し、その他の財産や医療や介護に関する決定は任意後見人に委ねるといった役割分担が考えられます。

8-2. 併用する場合の役割分担と注意点

家族信託と任意後見を併用する場合、以下のような役割分担が一般的です:

領域担当
不動産・金融資産の管理家族信託(受託者)
日常的な金銭管理家族信託(受託者)or任意後見人
医療・介護の決定任意後見人
住居の確保・契約任意後見人

両制度を併用する際は、受託者と任意後見人の間で連携がスムーズに行えるよう、あらかじめ調整しておくことが重要です。

8-3. 専門家によるサポート体制の構築

家族信託と任意後見を効果的に併用するためには、専門家のサポートが欠かせません。弁護士、司法書士、税理士、社会福祉士などが連携して、総合的なサポート体制を構築することが必要です。

特に、家族信託の受託者と任意後見人が異なる場合は、両者の連携が重要です。定期的な情報共有の場を設けるなど、円滑なコミュニケーション体制を整えておきましょう。

9. まとめ:家族信託で実現する安心の財産管理

家族信託は、従来の制度では対応しきれなかった、柔軟で長期的な財産管理・承継を可能にする画期的な仕組みです。認知症対策、相続対策、事業承継対策など、様々な場面で活用できます。

ただし、家族信託を成功させるためには、信頼できる受託者の選定、適切な契約書の作成、税務上の配慮など、専門的な知識と経験が必要です。

ご自身やご家族の将来に不安を感じている方、資産を次世代に円滑に引き継ぎたい方は、家族信託について専門家に相談することをお勧めします。一人ひとりの状況に合わせた、最適な対策を見つけましょう。

当事務所では、任意後見・家族信託に関する初回相談を無料で承っております。認知症対策、相続対策、事業承継対策など、あなたの悩みに合わせた最適なプランをご提案いたします。「家族信託」についてさらに詳しく知りたい方は、お気軽に当事務所(法律事務所DeRTA(デルタ))にご相談ください。

まずはお気軽にご相談ください。あなたの大切な財産を守るための第一歩を、私たちと一緒に踏み出しましょう。

ABOUT ME
弁護士 黒澤真志
弁護士 黒澤真志
代表
2009年12月に弁護士登録(登録番号41044)し、アクト法律事務所にて勤務した後に2019年4月に独立し、法律事務所DeRTA(デルタ)を設立。 家族関係の法律問題に関する交渉事件から訴訟事件までを数多く取り扱っており、東京地方裁判所の破産管財人や東京簡易裁判所の司法委員も担当している。 著書に、「離婚・離縁事件実務マニュアル」(第3版)(ぎょうせい)共著、「遺産分割実務マニュアル」(第3版)(ぎょうせい)共著、「新破産実務マニュアル」(全訂版)(ぎょうせい)共著、「遺言書・遺産分割協議書等条項例集」(新日本法規)共著など。
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