コラム

「終身サポート」の裏に潜むリスク――高齢者が事業者から死因贈与や遺贈を迫られる現実とは

derta_kouken

高齢者を対象とした終身支援サービスが近年増加しています。一人暮らしや身寄りのない高齢者にとって、安心を得られるありがたい存在に思える一方で、その裏側には看過できないリスクが潜んでいます。
中でも、介護事業者等のサービス提供者が利用者に対して死因贈与契約や遺贈、寄付などを強く促すケースが問題となっています。本記事では、その実態と背景、法的な問題点、そして高齢者を守るための対応策について詳しく解説します。

終身支援サービスの急増とその背景

孤独高齢者の増加と新ビジネスの台頭

近年、高齢者の孤独問題は深刻さを増しており、身寄りのない高齢者や、家族がいても遠方に住んでいたり、関係が希薄な高齢者が増加しています。このような状況を背景に、高齢者の日常生活を支援するさまざまな**「終身支援サービス」**が台頭してきました。これらのサービスは、見守り、安否確認、緊急時の対応、生活支援など多岐にわたり、高齢者やその家族にとって心強い存在となり得るものです。

終身支援サービスの具体的内容

終身支援サービスには、以下のような内容が含まれることが多いです。

  • 見守り・安否確認: 定期的な訪問や連絡、センサーなどによる安否確認。
  • 緊急時対応: 体調不良時や災害時の緊急連絡、医療機関への搬送手配など。
  • 生活支援: 買い物代行、役所手続きのサポート、金銭管理の補助など。
  • 身元保証:医療・介護施設への入所の際に必要となる身元保証人を請け負うなど。
  • 介護サービス等: 身体介護(入浴、排泄、食事の介助など)、生活援助(掃除、洗濯、調理など)。
  • 死後事務: 葬儀の手配、遺品整理、行政手続きなど。

これらのサービスは、高齢者が安心して生活を送るための重要な役割を担っています。しかし、その一方で、一部の事業者による不適切な行為が問題視されており、特に「死因贈与」や「遺贈」を巡るトラブルが顕在化しています

高齢者支援サービスと死因贈与の関係とは?

死因贈与・遺贈とは

死因贈与とは、贈与する人の死亡によって効力が生じる贈与契約のことです。つまり、生前に贈与する側(贈与者)と受け取る側(受贈者)が合意し、贈与者が死亡した時点で財産が受贈者に渡る契約を指します。遺言書のように贈与者の一方的な意思表示で成立する「遺贈」とは異なり、死因贈与は双方の合意が必要な「契約」である点が特徴です。

一方、遺贈とは、遺言によって自分の財産を特定の人に無償で与えることです。遺贈は遺言者の単独の意思表示で成立し、受遺者(財産を受け取る人)の承諾は不要です。

なぜ死因贈与契約や遺贈が絡むのか

高齢者支援サービスを提供する事業者の中には、サービス提供の対価として、あるいは「お世話になったから」という名目で、高齢者に対し死因贈与契約の締結遺贈を求めるケースが見られます。もちろん、高齢者の方の自由な意思に基づくのであれば問題はありませんが、実際には強要的な形で通常のサービス費用では賄いきれない部分を、将来の財産で補おうとする意図や、高齢者の財産を自身の事業に取り込もうとする思惑が背景にあると考えられます。

強要に近い死因贈与・寄付の実態・実際に起きたトラブルとその背景

「お世話になったから財産を」と誘導する手口

一部の悪質な事業者は、高齢者の孤独感や不安につけ込み、「あなたには身寄りがいないから、私たちが最後まで面倒を見ます」「これだけお世話になったのだから、財産の一部を私たちに」といった言葉で、死因贈与や寄付を誘導します。日々のきめ細やかなサポートを通じて信頼関係を築き、最終的に財産を要求するという巧妙な手口が用いられることがあります。高齢者が恩義を感じ、断りにくい状況に追い込まれることも少なくありません。

遺産の多くが支援事業者に渡った事例

実際に、高齢者が亡くなった後、その遺産の大部分が支援事業者に渡っていたというトラブルが報告されています。残された親族が、高齢者の意思とはかけ離れた死因贈与契約や遺贈の存在を知り、法的な争いに発展するケースも増えています。これらの事例では、高齢者が判断能力の低下した状態で契約を締結させられたり、事業者側からの精神的な圧力を受けたりした可能性が指摘されています。

事業者が遺贈等をさせることの問題点・裁判例

問題点

真意に基づくものかの疑義

死因贈与契約の締結や寄付をすることを入居等の条件やパッケージプランとすることは、その契約や寄付が真に利用者の意思に基づくものか、大きな疑義が残ります。特に、高齢者の判断能力が低下している場合や、事業者と利用者の間に情報や立場の格差がある場合、高齢者が十分な理解のもとで契約を結んだとは言い難い状況が生じがちです。

利益相反の構造

高齢者等終身サポート事業者にとっては、サービス提供に係る費用をかけなければ、将来、死因贈与を受けられる財産の額がその分増大することになります。これは、事業者がサービスを充実させるインセンティブが働きにくくなり、利用者の利益よりも自身の財産確保を優先する「利益相反」の構造を生み出す可能性があります。

裁判例(名古屋高裁(令和4年3月 22 日判決))

トラブルとなった裁判例として名古屋高裁の令和4年3月22日判決が挙げられます。これは、高齢者支援サービス(特別養護老人ホーム)を提供する事業者が、身元保証契約のほかに死因贈与契約をセットにしていた事案で、その内容及び締結過程に照らし、いわば社会的弱者とされる高齢者に身元保証を提供する代わりに合理的な理由もないままその死亡時の不動産を除く全財産を無償で譲渡させることにより同事業者が利益を得るものであって、暴利行為といえ、公序良俗に反して無効であると判断しました。

支援と搾取の境界が曖昧に
この判決のように、高齢者に対する支援が、一歩間違えれば財産の搾取につながりかねないという現実が存在します。事業者は、本来高齢者の生活を支える立場にあるにもかかわらず、その立場を利用して自己の利益を図る行為は、倫理的にも法的にも許されません。

高齢者を守るためにできること(法的対応と被害予防のポイント)

信頼できる業者の選定

高齢者支援サービスを利用する際は、信頼できる事業者かどうかを慎重に見極めることが最も重要です。以下の点を参考に、複数の事業者を比較検討しましょう。

  • 実績と評判: 長年の実績があり、良い評判が多いか。
  • 情報公開: サービス内容、料金体系、契約条件などが明確に開示されているか。
  • 第三者機関の評価: 公的な認証や、業界団体のガイドライン(高齢者等終身サポート事業者ガイドライン)を遵守しているか。
  • 契約内容の確認: 死因贈与や遺贈に関する条項がないか、ある場合はその内容を十分に確認する。

弁護士等の関与の必要性

上記のとおり、裁判を経れば死因贈与等の無効を主張できる場合もありますが、場合によっては莫大な費用と時間を要することになります。そこで、事前の予防が重要になってきます。

高齢者支援サービスを検討する際、特に死因贈与や遺贈に関する話が出た場合は、必ず弁護士や司法書士といった法律の専門家に関与してもらうようにしましょう。専門家は、契約内容の適正さを判断し、高齢者の意思が真に反映されているかを確認できます。また、不当な要求があった場合には、法的なアドバイスや介入が可能です。

弁護士による見守りサービスが有効

事前の予防のために、弁護士による「見守り契約」を締結することも有効な手段です。弁護士による見守りサービスは、新しいサービスであり、定期的な面談を通じて高齢者の状況を確認してもらい、不審な契約や財産変動がないかをチェックしてもらうことができます。万が一、悪質な業者による被害に遭いそうになった場合でも、早期に専門家が介入し、被害の拡大を防ぐことが期待できます。

高齢者の皆さんが安心して老後を過ごせるよう、周囲の方々もこうした問題に関心を持ち、必要なサポートを提供していくことが重要です。


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老後の不安を解消するには、任意後見制度や見守り契約、死後事務委任契約など、信頼できる法律の専門家の関与が不可欠です。

法律事務所DeRTA(デルタ)では、高齢者向けの任意後見サービスや見守りサービスを提供しております。これらのサービスにご興味のある方は、お気軽に法律事務所DeRTA(デルタ)へご相談ください。
当事務所は東京都港区西新橋に所在し、東京、埼玉、千葉、神奈川を中心に法的サービスを提供しております。初回相談は無料です。あなたの老後の安心を、法の力で支援いたします。
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ABOUT ME
弁護士 黒澤真志
弁護士 黒澤真志
代表
2009年12月に弁護士登録(登録番号41044)し、アクト法律事務所にて勤務した後に2019年4月に独立し、法律事務所DeRTA(デルタ)を設立。 家族関係の法律問題に関する交渉事件から訴訟事件までを数多く取り扱っており、東京地方裁判所の破産管財人や東京簡易裁判所の司法委員も担当している。 著書に、「離婚・離縁事件実務マニュアル」(第3版)(ぎょうせい)共著、「遺産分割実務マニュアル」(第3版)(ぎょうせい)共著、「新破産実務マニュアル」(全訂版)(ぎょうせい)共著、「遺言書・遺産分割協議書等条項例集」(新日本法規)共著など。
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